エナジー ストレージ マテリアルズは蓄電用HV固体イオンキャパシタ(HV-SIC)の技術指導を行うベンチャー企業です





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  軍事技術に応用すれば(2)

電池とキャパシタの比較:急速充電 直列と並列


このページに書いてあること

 1) 電池には充電速度の限界があるがキャパシタにはない
 2) 急速充電には充電電圧を上げる必要がある
 3) 電池の充電電圧を上げるのは困難であるがキャパシタは簡単


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BEV普及の障害のひとつに充電時間があります。急速充電の時間は一般的に30分とされています。 しかし、30分の充電ではフル充電には全く足りず、充電ステーションの数が足りなけば充電渋滞を起こします。 下の写真は、BEV先進国であるノルウェーと中国で発生した充電渋滞です。
この充電渋滞の問題は、リチウムイオン電池(LIB)から蓄電キャパシタへ変えることで解消します。ここではその理由について説明します。


図1 世界各地で起こる充電渋滞

まず、LIB自体に充電速度を説明するには、Cレートを理解する必要があります。 1Cとは公称容量値を持つセルを定電流放電し1時間で放電終了となる電流値です。 0.5Cなら2時間で放電終了となります。このCレートは充電時にも使います。 1C充電の場合、充電開始1時間後には90%が充電され、0.5Cでは2時間後には90%が充電されます。 何故、100%ではないのかというと、満充電に近くなると電圧が過充電を4.2V以上になるため充電電流を減らし、充電速度を落とすためです。 そうなると高Cレートで充電すれば充電時間は短くなるのですが、LIBにはCレートの限界があり、急速充電をすれば電池はの劣化が進行します。

これに対しキャパシタの場合は単純です。充電速度の限界を決めるのは内部抵抗で、この値を下げれば、理論的には充電電流はいくらでも上げられます。 市販されている電気2重層キャパシタの内部抵抗は、数分でフル充電をするのには全く問題のない値となっています。 したがって、キャパシタの充電速度はBEVなどの利用ならばいくらでも速くできることになります。 さらに、キャパシタは劣化せず固体キャパシタであれば温度変化にも強く、過充電などの問題もないのでLIBのように充電時の精密な制御は必要ありません。


図2 LIBとキャパシタの高電圧化への違い

実際にはBEVの充電速度を決めるのは、充電時に供給できる電力(=電圧X電流)です。 ここで電流値には限界があります。電流値を上げるとケーブルが太くなり、コネクタの接触抵抗があればそこで発熱します。 したがって、電力を上げるのは電圧を上げる方が良いのですが、LIBはこの高電圧充電が非常に難しくなります。

現在、ヨーロッパでは800Vの充電器を普及させようとしていますが、800Vに対応できる車種はほとんどありません。 ポルシェ社のタイカンという車種の場合、約200個のLIBセルを直列に接合して高電圧化を達成しています。 しかし、このLIBの直列接合が問題を発生します。 200個のLIBに800Vの電圧をかければ理論的には各セルに4Vの電圧がかかるわけですが、現実にはそうはならず、各セルの抵抗にしたがって電圧は分配されます。 例えば、製造プロセスでの何らかの要因で抵抗値が大きくなったり、劣化が進行して抵抗値が大きくなったセルには高い電圧がかかることになり、逆に内部抵抗の低い正常なセルには電圧がかからず充電が進行しません。 劣化が進行したセルには高い電圧がかかり、劣化がさらに進行するので、直列接合は弱い者いじめの接合とも言えます。 セルによっては、過充電で加熱が起こる4.2Vを超えてしまうので、その時は保護回路でセルの電流をバイパスすることで見かけの抵抗値を下げて4.2V以上の電圧がかかるのを防止します。
つまり、多数のLIBを直列接合して充電電圧を上げるのは、簡単な話ではないということです。

高電圧で充電すれば電力があがるので急速充電はできますが、そのためには車両の方もその充電電圧に対応している必要があります。 逆に車両の充電電圧が上がれば、充電ステーションの電圧をそれに合わせる必要があり、新たなインフラ投資が必要になります。

このようにLIBの直列接合には問題がありますが、最も深刻なのはセルの劣化から不良になった場合の対応です。 直列接合は弱い者いじめですので、劣化して最も弱いセルが最初に故障し、それに回路全体が動かなくなります。 その修理のため不良となったセルを交換すれば、次の弱いセルに負担が集中し、それが故障となります。 つまり、使用時間が長くなるとセルの不良による故障が頻発するわけです。 この問題は容量が大きく長い寿命が求められる定置型蓄電装置では、深刻となる可能性があります。

これに対しキャパシタでは、全く状況は異なります。 急速充電という点では、充電電圧は高いほど良いのですが、ケーブルの耐圧や放電などの問題が発生するので、現実的には2kV程度が上限と思われます。 LIBの直列接合で2KVを達成できるかと言えば、上に述べた理由でおそらくできないでしょう。 しかし、キャパシタならばいとも簡単に達成できます。誘電体の厚みを増やせば良いのです。 ここが電池とキャパシタの最大の相違点で、電池は電圧で駆動されるのに対し、キャパシタは電場(=電圧/厚み)で駆動されます。 つまり、キャパシタの厚みを変えれば充電電圧を変えることができるのです。

キャパシタの充電電圧を2kVに設定し、電流値はヨーロッパの規格である800V, 350kWから計算される440Aとすると、充電の電力は880kWになります。 BEVの電費を7km/kWhとすると、5分間の充電で約500kmの走行が可能になるわけです。

したがって、蓄電キャパシタを使えばガソリンスタンドと同様の時間で充電ができ、充電渋滞は発生しなくなります。


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